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2022.03.30

対談【トップリバー×日立ソリューションズ東日本】
「儲かる農業」という新たな仕組みで日本の農業を変えていく

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「スマートファーマー育成コンソーシアム」。これは、有限会社トップリバーや日立ソリューションズ東日本などが参画している農業経営者支援プログラムだ。データやシステムといったITの活用で、「儲かる農業」を実現させるための取り組みを推進している。今回はトップリバーの代表取締役である嶋﨑氏と日立ソリューションズ東日本の大江氏、さらにファシリテーターとして日立ソリューションズの野田氏を加えた座談会を実施。日本の農業の未来について語ってもらった。

  • 嶋﨑 田鶴子 / Shimazaki Tazuko

    有限会社トップリバー 代表取締役

    高原野菜の生産や契約販売、さらには新規就農者の育成など、農業経営者を幅広くサポート。さらにはスマート農業関連事業の責任者として、関係各所との調整や自圃場への展開を担当。

  • 大江 康一 / Oe Koichi

    日立ソリューションズ東日本 ビジネスイノベーション推進センタ コンサルタント

    農業生産者とIT企業をつなぎ、地域を担う農業生産者の育成・発展のための取り組みを実施。農業のIT化で生産効率化に向けた見える化を行い、利益向上のために最適な仕組みを提案・構築する役割を担う。

  • 野田 勝義 / Noda Katsuyoshi

    日立ソリューションズ デジタルソリューション推進センタ 部長

    日立グループの中でもITを担う中心的な企業として、お客様のDX実現に向けて、「日立ソリューションズDXラボ」をはじめとする協創のためのプラットフォームなどの仕組み作りや、お客様との協創活動の推進に取り組んでいる。

今必要なのは、「農業経営」

野田:今、社会課題に対してIT活用やDXの動きが広がっていますが、農業においてはどのような課題、あるいは変化があると感じられていますか。

嶋﨑:まず挙げられるのは、人材不足ですね。約30年前には400万人ほどいた農家の人口が、あと数年でおよそ60万人にまで減ってしまうといわれています。必然的に後継者不足へとつながり、人手が足りないから遊休農地も増加してしまう。また、価格の低迷化など、農業が抱える課題は少なくありません。それらを考慮した上で、今後の農業界で求められるのは「農業経営」の意識だと考えています。つまり、ビジネスや経営の意識を持つ農業生産者を増やしていくこと。農業に関心を持つ方たちが増えているようですが、経営という点では他の産業と比較して、まだまだ成長の余地があると思っています。たとえば、効率や生産性を意識して、担い手が減っても生産高を維持できるような仕組みづくりもそうですね。農業をビジネスとして成り立たせていく。その意識を一人ひとり持つことが、農業だけではなく日本の食料供給を支えていくための課題だと思っています。

野田:なるほど。そのような課題を解決するためにITで支援できることも多くあると考えられそうですね。トップリバーさんと日立ソリューションズ東日本の出会いは、どのようなものだったのでしょうか。

大江:日立ソリューションズ東日本は、2010年頃から新規事業として農業に関連する取り組みを始めていました。もともと、日立ソリューションズ東日本の本社が宮城県仙台市にあったことから、地域貢献という意味でも農業に着目していました。農業に参入しようということで「生産の見える化・効率化の仕組みづくり」をテーマに情報収集を進める中で、トップリバーさんに出会いました。私たちが考えていた「製造・流通におけるITの仕組みを農業に取り入れる」といったアプローチを、トップリバーさんは進められているところでした。そこに、我々が持つITの知見やノウハウを提供することでトップリバーさんのビジネス拡大に貢献しつつ、日立ソリューションズ東日本が思い描いていた事業の実現にもつながると考えてお付き合いが始まりました。

「スマートファーマー育成コンソーシアム」とは

野田:そのような経緯で「協創」が始まったわけですが、トップリバーさんと日立ソリューションズ東日本を含む数社が参画している「スマートファーマー育成コンソーシアム」という取り組みがあるともお伺いしました。このプロジェクトについて教えていただけますか。

嶋﨑:「スマートファーマー育成コンソーシアム」は、端的に申し上げると農業生産者自身がデータを活用することで「儲かる農業」を実現させるための取り組みです。出荷計画・生産情報・売上実績など、農業経営に必要なデータを精査し、数字としての見える化やデータ活用を徹底的に行いながら、結果的に農業生産者の所得向上や食料の安定供給などをめざすプロジェクトとなっています。日立ソリューションズ東日本のほか、税理士さんをはじめとする会計システムの業者や、技術支援の担当する行政機関などとの連携を図り、スマートファーマーを育成しながら農業経営に活かせる仕組みをつくろうということで立ち上がりました。

大江:トップリバーさんは農業界のトップランナーであり、私にとってまさにレジェンドの存在でした。そのような方々とともに、農業に貢献できる仕組みを構築するプロジェクトに参画できる機会をいただけたのは、日立ソリューションズ東日本としても光栄であり、感謝の想いを抱きながら参画しています。

野田:スマートファーマーの育成や農業の新たな仕組みづくりとして、非常に重要なプロジェクトですね。実際にどのような取り組みを行っているのでしょうか。

嶋﨑:トップリバーが行っているのは、実証農場の提供です。リアルタイムでの栽培情報の入力やデータをもとに経営判断を行い、作業へとフィードバックして検証するなど、基礎データの作成を担当しました。そもそも「所得」「農業情報」などの精査や再定義を行うことから始まり、データを活用して「何をどう管理していくべきか」を試行錯誤しながら、PDCAサイクルを回して現場で実証事業を並行して進めるような感覚でした。

トップリバーでの社内研修・PC操作の様子、作業風景

野田:ありがとうございます。たしかにマネジメントプロセスを確立すること自体にも、大きな苦労があったのではないかと思いました。その点で大江さんからもナレッジの共有など、どのような貢献をされていたのでしょうか。

大江:たとえば作業実績の登録や営農状況の見える化といったシステム開発やレタスのAIによる生育予測モデルの実装では、弊社の製造業における工場の在庫管理や受発注のシステム化など、ほかの業界で得られた知見を組み込むことができたと思います。その中でも、データを活用するための仕組みの構築や、現場の方々がいかに手間なく作業実績、生育状況などの数値を入力できるかといった部分は、特に意識したところです。収穫までの日数において、農業生産者の経験と勘にもとづく予測から、AIを活用して精度の高い情報を提供できているところも、我々の強みが活かせていると思っています。AIによるレタスの収穫日予測は、おそらく業界として初の試みです。

嶋﨑:1点だけ補足させていただくと、「収穫の予測値の精度を高めること」がゴールではないんですよね。そのデータや予測値をもとに、どのような形で運用・活用して役立てていくか。農業における販売戦略や売上確認といった、実際のビジネスに役立てるための仕組みづくりを意識しています。

大江:そうですね。ゴールが「儲かる農業」である芯をブレずに考えているところが、このコンソーシアムの特徴といえると思います。また、今回、IT業界で利用されているIT人材の育成などを体系化した「iCD」を農業に初めて取り入れました。農業全体への社会貢献といった意味でも先進的なプロジェクトだといえます。

システムのメニュー画面/圃場回転ガントチャート/iCD診断画面像

持続可能な営農活動で、人々の健康を守りたい

野田:サステナブルな取り組みとして意識していることは何ですか。

嶋﨑:農業経営は日本の未来において、食料供給源として非常に重要な産業です。そのことを、もっと多くの方々に伝えていきたいですね。そして、私たちの取り組みを継続して実践していくためには、きちんとした裏付けや理論といった、数字の根拠が必要だと思っています。そして、その情報を活かして成果を形にしていくのはビジネスの基本かもしれませんが、農業においてもその考え方を大切にしていきたいですね。

大江:私も同じようにIT化による「儲かる農業」の実現を次の世代につなげていくことこそが、サステナブルな視点のカギだと思っています。数字としての目標は農業生産者の所得を現在の平均360万から同年代の全産業平均年収の457万を超える500万円に引き上げること。この目標を達成し、農業就農者を増やし、地域を担う農業生産者を育成することで、一部の地域や一時的な注目ではなく、持続可能な営農活動を進めていきたいと思っています。

嶋﨑:おっしゃる通りです。ただ、「儲かる農業」を初めて聞く人に誤解してもらいたくないのは、農業が単なる「金儲けの手段」ではないということです。コスト管理とデータにもとづく計画で、ビジネスとして成り立つ農業を確立させていき、一人ひとりが儲かる仕組みをつくり、農業全体を活性化させていく。その先にある目的として、農業人材の育成や食料の安定供給、安心・安全のおいしい野菜で人々の健康を守っていきたい、といった社会的使命を大切にしています。

野田:素晴らしい取り組みですよね。最後に、今後のビジョンについてどのように考えていらっしゃいますか。

嶋﨑:大江さんがおっしゃったように、私たちの取り組みを広げていくことですね。ただ、同じシステム、同じ形で広げることはできないと思っています。というのも、農業は地域ごと、農業生産者ごとに考え方が違っていて、それぞれの良いところは活かしていくべきかなと。デジタル化・情報の分析・ビジネスや事業への活用といった大枠の仕組みとPDCAサイクルをベースにしながら、地域に根差した形で役立ててもらえればと考えています。将来的には、農業生産者にしかできないこととITを組み合わせてDXを実現させ、より効率的に「儲かる」ための産業構造ができればいいなと期待しています。

大江:農業の抱える課題を解決するために、自動運転やドローンといったハードウェアの先端技術が注目されがちですが、それだけではありません。短期的な効果としては現れづらくても、我々が取り組んでいるような、農業人材の育成も含めた新しい仕組みづくりにも価値があると信じています。今回の「スマートファーマー育成コンソーシアム」によって、データを活用した農業経営を行う基盤の構築ができました。トップリバーさんをはじめとするみなさんと「協創」をしていきながら、日本の農業全体や将来の発展のためにこのモデルを全国的に広めていきたいですね。

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