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2022.03.29

対談【UTグループとの協創】
AI×アバターで評価面談!新たなHRマネジメントへの挑戦

1068回表示しました

IT業界のみならず、AIを活用したサービスやソリューションが多くのビジネスで活用されるようになってきた。その流れはHR業界にも広がっている。今回取り上げる「面談支援AIサービス」はアバターが派遣社員に対し面談を行い、面談結果をAIが解析することで、面談業務の効率化・均質化・質向上を促すソリューションだ。サービス開発に携わったUTグループの山岸氏や日立製作所の角田氏のほか、日立ソリューションズの井上氏と福島氏を交えた座談会を行い、開発背景や将来的に目指すビジョンを語ってもらった。

  • 井上 正彦 / Masahiko Inoue

    日立ソリューションズ スマートライフソリューション事業部 クラウドソリューション本部アプリケーション基盤部 AIプラットフォーム推進グループ グループマネージャ

    入社後から約15年間、インフラ系のSEやマネージャとして通信業界や不動産関係のさまざまなサービス開発などに携わった後、新規事業創生活動に従事。本プロジェクトにおいてもプロダクトマネージャとして事業の開発・推進のほか顧客対応など幅広く担当。

  • 福島 里紗 / Risa Fukushima

    日立ソリューションズ 業務革新統括本部 技術革新本部 デザイン技術部

    日立ソリューションズ DXラボ」のDXスペシャリストとして、社内の新規事業創生や顧客協創における支援を担当。アイデア創出・仮説構築・価値検証といった各ステップのワークショップ設計やファシリテーションなど、サービスの事業拡充やスケールに向けた伴走者として、フロント事業部と共にプロジェクトを支えていく立場を担う。

  • 角田 崇 / Takashi Kakuta

    日立製作所 産業・流通営業統括本部 流通営業本部 第一営業部 主任

    入社以来、流通業のアカウント営業としてお客様の課題解決に向けたシステムのSIやソリューション提案のほか、近年はお客様との協創による新たなビジネス創出も推進。本プロジェクトにおいてもお客様とメンバーのブリッジ役として、サービス開発を牽引していくポジションを担当。

  • 山岸 建太郎 / Kentaro Yamagishi

    UTグループ キャリア開発部門・上席執行役員・人材派遣業

    大手人材サービス系の会社で適性検査などのアセスメントや研修関連のトレーニング開発に従事。その後は、HR領域やAIソリューション事業を含むさまざまな事業経営を経てUTグループに入社。派遣社員のキャリア形成を企画・推進するミッションを担っており、キャリア開発の研究・開発・導入の一環で本プロジェクトに参画。

HR業界の新しい課題に挑戦した背景

ー本プロジェクトはどのような経緯でスタートしたのでしょうか。

井上(日立ソリューションズ):もともとは、我々が日々、システム開発案件のプロジェクトマネージャとして、様々なパートナー企業の人財と面談し、スキル評価した上で案件に参画してもらっているのですが、人財のスキル特性と案件の要求スキルとのミスマッチが発生することが多く、人財の見極めに課題を感じていたことから始まっています。この悩みは自分だけなのだろうかと思い、当社人事部に相談したところ、採用候補者の見極めには相応の経験が必要であり、評価のバラつきや、後進の育成といった、人財の特性把握に関する共通した悩みがあることがわかりました。人財のミスマッチでプロジェクトも企業も個人も不幸になってしまうケースをたびたび目の当たりにしており、大きな問題意識をもっていたので、ITのチカラで解決できないものかと考えたのがきっかけです。手始めに社内で行われたアイデアコンテストで、AIを活用し、人財のミスマッチを防ぐ、人財マッチングプラットフォームのようなソリューションを構想、提案したところ、最優秀賞をいただくことができました。その後、このような人財マネジメントの課題への取組みは人材サービス業でこそ最先端の取組みをされているのではないかという考えに至り、様々な関係者と会話しました。その中で、日立製作所の角田さんとも会話する機会があり、角田さんより、AIを活用した業務改革を検討されているお客様がおり、一度構想をぶつけて、議論してみてはどうかとのことで、UTグループの山岸様をご紹介頂いた流れとなります。

角田(日立製作所):そうですね。実はこのプロジェクトが始まる前から日立製作所とUTグループさまには接点がありまして、過去には身体能力を可視化する技術をご紹介したことがありました。あいにく実用化には至らなかったのですが、新しい技術の導入に対する前向きな姿勢や新しい仕組みづくりに果敢に挑戦されていく様子のほか、人財教育に対する想いも感じていたので、井上さんの構想を聞いた時、UTグループさまと一緒に何かできるのではないかと考え、ご紹介しました。今回の取り組みを形にすることができて良かったです。

山岸(UTグループ):そう考えるとすでに数年の付き合いになりますね。我々、UTグループは製造派遣と呼ばれるビジネスを行っており、工場などの製造現場に人財を派遣しています。派遣社員を多数抱える中で重要なのは、一人ひとりのキャリア形成を支援していくことです。フォロー面談や評価面談などを重点的に行っているのですが、会社が年間で行う面談は10万回以上にも及びます。面談者による面談の質にバラツキがあるのも気になっており、それらの課題解決になればと願って本プロジェクトに参画いたしました。

UTグループ社のビジネスモデル
https://www.ut-g.co.jp/ir/individual/about/index.htmlより抜粋

ーパーソナルなHR領域へのAI適用についてどのような想いをお持ちですか。

山岸(UTグループ):前職でAIの分野に携わっていたこともあり、AIを活用するためのベースとなる知見は持っていました。HR領域へのAI適用で重要なのは、やはり人財評価の精度です。人財のキャリア形成に関わってきますので、評価の精度が低ければ、やらなくて良いどころか、むしろやってはいけない。誤った評価をしてしまわないように、とにかく精度を重視して取り組みたいと考えていました。

角田(日立製作所):たしかに精度は我々としても重要なポイントと捉えていましたので、PoC(※1)で精度検証を行い、良好な結果を得ることができました。面談支援AIサービスは、コロナ禍の新常態であらゆる場面のオンライン化が加速している中、活用シーンが非常に多いだろうと期待しています。

(※1)PoC(Proof of Concept:概念実証)とは、新たなアイデアやコンセプトの実現可能性やそれによって得られる効果などについて検証すること。

井上(日立ソリューションズ):個人のキャリア形成に関わる人財評価の精度が重要なポイントであるというのは、その通りだと思います。そして、人財評価というパーソナルな領域のデータを扱う新たなサービス開発ということでそれらのデータを取り扱う不安があったのも事実です。日立グループとしても人財評価というパーソナルな領域に踏み込むAIサービスは取組みを始めたばかりで、セキュリティや倫理的な観点からも課題や議論の余地はまだ残っています。それだけに、各所の注目度が高いプロジェクトともいえるでしょうね。そうした中、構想を事業としてカタチにすべく、弊社のDXラボを活用し、開発を進めました。

福島(日立ソリューションズ)DXラボでは、井上さんの考えたサービス構想を活用できるシーンを洗い出し、顧客への提供価値を軸にビジネスモデルや利用イメージの整理、具体化を進めていきました。面談者の業務効率だけでなく、人財評価の均質化やアバターを介した気軽なコミュニケーション、スキマ時間で受けられる面談機会の創出といった働き方改革の観点、被面談者にとってのメリットなど、価値を提供できる可能性が多岐にわたるため、ユースケースやサービス化の単位の整理に苦労しました。様々な提供価値の可能性を整理することがサービスの質向上につながり、HR業界の課題解決にまでつながっていくことを実感でき、粘り強く取り組むことができました。

面談がAI化される「面談支援AIサービス」とは

ー「面談支援AIサービス」の魅力について教えてください。

井上(日立ソリューションズ):まず「面談支援AIサービス」の概要ですが、熟練面談者の面談ノウハウを学習したAIモデルによって人財の評価を支援するサービスになります。例えるなら、熟練の面談者のコピーロボットをつくり、面談スキルや経験の足りない初級面談者を支援するイメージですね。本サービスの魅力は2つありまして、まずは企業としてのノウハウ蓄積が難しい熟練面談者の持つ評価の暗黙知を、面談中の動画から自動でAIモデル化できること。2つ目は、汎用的なAIではなく、お客様の業務に特化した個別の評価指標をカスタマイズし、AIモデルを作成できることです。これらの魅力を作りこんでいくために、サービスのコアコンセプト構想から、価値検証、ビジネスモデル構築といった事業企画に多くの時間を費やしました。その分、サービスの開発は短期間で進める必要があったため、弊社のデジタルソリューション創出プラットフォームというすぐに利用可能なアプリケーションの実行・運用環境を活用しました。

角田(日立製作所):特に2つ目の魅力について、お客様特有の判断軸を覚えさせることができる、つまりオリジナルの基準を自由にアレンジできる点は、競合他社の面談支援システムと大きく異なる強みでもあり、本サービスの優位性となっています。

山岸(UTグループ):私の立場からのメリットでいうと、「均質化」「効率化」「質向上」が挙げられます。実際に人が行う面談では、一人ひとり異なる印象や判断基準を持ってしまうのは避けられません。AIが面談を行うので、面談の数をこなすとき、面談者によるゆらぎがなくなり、評価や判断の基準の「均質化」が図られます。さらに、AIが人の代わりに面談を行うので、面談者の都合や場所の制約もなく、被面談者の都合に合わせ面談を受けることができるため、大切な面談の機会を失うことなく、面談者と被面談者双方の時間も労力も大幅に軽減でき、「効率化」が図れるようになります。「質向上」については意外に思われるかもしれませんが、面談者がアバターだと緊張せずに話せるという人が多くいるんですよね。人と話すのが得意でなく、面談にプレッシャーを感じてしまったりと、コミュニケーションに慣れていない人でも面談者がアバターならリラックスして話すことができるようです。面談のやり取りをAIが学習し、アバターを通して、様々な観点で質問を投げかけることで、面談者と被面談者の相性や人間関係などに左右されることなく、人財のポテンシャルや深層心理を引き出し、評価することにつなげるといった一定の「質向上」を見込めるのもメリットだと感じています。

ープロジェクト推進にあたって苦労したことや課題となったことは何でしょうか。

井上(日立ソリューションズ):やはり新規サービス立ち上げということで、ゼロから作り上げていく難しさや苦労は常に感じていました。更に、サービス開発と並行して今回のUTグループ様向けの開発を同時並行して推進していく必要があり、開発現場にもかなりの負担をかけ、結果としてUTグループ様にご迷惑をおかけする場面もありました。開発推進や投資活動でも、事例や経験が不足していたことから負担が大きかったことは否めません。しかし、お客様に価値を提供できるコアコンセプトを明確にし、このプロジェクトの意味や価値を周囲に伝えながら巻き込んでいき、粘り強く行動していくことで壁を乗り越えられたのではと思っています。

福島(日立ソリューションズ):そうですね、私の方でも当初のターゲットの困りごとやニーズを洗い出していくと想定していた以上に多岐にわたってしまい、サービスの利用シナリオとしてまとめるのが難しい状況に直面したこともありました。それでも、面談支援AIサービスのポテンシャルを最大限に引き出していけるようにという想いを常に持ち続けていましたね。ニーズの細分化や様々な観点から価値訴求ポイントを検討し直すなど、ポジティブな試行錯誤を重ねていくことができました。

角田(日立製作所):別の観点で苦労したことといえば、やはりコロナの影響もあったと思います。当初は対面での打ち合わせができないことで、コミュニケーション不足による認識の齟齬といったことも起きてしまいましたが、次第にオンラインでのプロジェクト進行に慣れて、円滑に進めることができました。オンラインでの協創はDXラボの強みですね。

山岸(UTグループ):私が一番の課題としているのは人財評価の精度ですので、それはデータが揃ってくれば見通しが立つと信じています。すでに数回行っているPoCでは良い結果が出ており問題はなさそうですが、油断はできません。この面談支援AIサービスはUTグループが事業拡大をしていくための重要なステップになるので、数字やデータをしっかり追っていき、成功につなげていきたいと思っています。

新しいHRマネジメントの取組みで実現する新たな社会

ー本プロジェクトを通じて、どのような気付きや学びがありましたか。

井上(日立ソリューションズ):ゼロからの立ち上げということで、誰も正解がわからないままプロジェクトを進めていく必要がありました。苦労などは先ほどお話しした通りですが、それを乗り越える原動力は「自分や周りを信じる」という想いです。信じて突き進んだ先には、当事者にしか味わえない充実感や醍醐味がある、今回のような挑戦的なプロジェクトに関われたことは貴重な経験だと感じています。これからも、「自分を信じる」「周りを巻き込む」といったマインドを大切にしていきたいですね。

福島(日立ソリューションズ):私も今回のプロジェクトを通じて、たくさんの学びがありました。これまでは、ターゲットや関係者への「提供価値」に焦点を当てることが多かったのですが、今回はそもそもの「コアコンセプトの価値」も意識していました。サービスが持つ本質的な価値を見極めるスキルが一段と磨かれた気がします。今後もDXラボによる効果的な協創支援に繋げて行きます。

角田(日立製作所):私も個人的な想いになりますが、お客様との「協創」に一層のやりがいを感じることができました。新規サービスの開発ということでUTグループさまも不安はあったと思いますが、課題解決と価値創出を目指して常に前向きに取り組んでいただけました。だからこそ期待に応えたいし、より良いサービスを創っていきたいという想いが強かったです。今後もそういったお客様と共に、価値あるサービスの開発に挑戦していきたいと思いました。

山岸(UTグループ):ありがとうございます。私も前向きに取り組めたのは、このプロジェクトがまさに小さなDXだと思っているからなのですよね。人がやるのが当たり前な面談を、AIが行う。この「当たり前」を変えて価値を生み出していくことは、まさしくDXだと考えていました。HR領域は、従来の方法から脱却できていないところが多くあるので、今後はさまざまな応用や展開も進めていきたいなと思っています。

ーこの新たな取組みが、HR領域や社会をどのように変えていくのでしょうか

福島(日立ソリューションズ):コアコンセプトを見据えながらサービスの提供価値を磨き上げていく手法は、どのようなプロジェクトにも活かせると思っています。今後もさまざまなHRテクノロジーが生まれてくると思いますので、私が携わる機会を得た際にはサービス開発を通じて、多様性が認められる社会の実現や一人ひとりが活躍できるジョブ型雇用の推進に貢献できればと考えています。

角田(日立製作所):まずはこの面談支援AIサービスをしっかり形にした上で、ほかのテーマの推進も支援していきたいですね。というのも、日立グループとしても「モノ売り」だけでなく「コト売り」も拡大させていく中で、お客様との協創が大きなテーマとなっています。そして、お客様の事業価値向上や社会課題の解決に向かって、共に取り組んでいければと考えています。

山岸(UTグループ):私も面談支援AIサービスは最初の一歩にすぎないと思っているので、この成功事例を横展開していくことが直近の目標です。もう少し先の未来の話で言うと、マネジメント管理の効率化ですね。具体的な数値として、管理職のSOC(※2)を現在の30〜50から200〜300まで引き上げたいと思っています。ただ、むやみに数値目標を追っているのではなく、やりたいのは「HRマネジメントの新しいモデル」を生み出すことです。この先さらに、非正規雇用の人財の割合が上昇していくと予想しています。とすると、さらなる雇用の流動化を前提としたHRマネジメントができるかどうかが問われるのではないかと思います。そのときにHRマネジメントのモデルケースがあれば日本全体により新しい働き方が生まれてくるのではないかなと考えています。来たるべき未来を見据えて、今こそ新しい取り組みに挑戦すべき時かなと思っています。

※2 SOC:Span of Control(マネージャが直接管理している部下の人数)

井上(日立ソリューションズ):素晴らしい考えですね。私の想いの根底にも、「失われた20年」と言われるような日本経済の低迷、さらに労働人口の減少といった深刻な社会課題があり、自分の子供たちの将来への強い不安があります。私の目指す社会は東京偏重ではなく、地方にいる人も、どのような特性の人も一人ひとりが生き生きと自分の能力を発揮できる社会であり、画一的な優劣の評価ではなく、人財の個性やポテンシャルを掴み、認めていくことが大事だと考えています。そのためにAIをはじめとするサイエンスやテクノロジーを活用し、AIが人と敵対する構図ではなく、人に寄り添う形で共に成長し歩んでいく、できることは小さいかもしれませんが、事業を通して、そんな世界を創っていけたらと思っています。

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