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2021.11.24

対談【三井住友建設×日立ソリューションズ】
デジタル検測技術による建設生産革命への挑戦

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近年、建設業界では、技能労働者の高齢化や人口減少により、深刻な人手不足が課題となっている。この課題を解決すべく、国交省で推進中のi-Construction(アイ・コンストラクション)(※1)をはじめ、ITの活用により生産性を向上させる取り組みが始まっている。鉄筋出来形検測作業は、建設現場で2名1組となり、事前準備や検測作業、調書作成などに多くの手間と時間を費やしており、これら作業の省力化を目的に、三井住友建設では、3次元情報を計測することが可能なソリューションの開発に着手した。今回は「鉄筋出来形自動検測システム」の開発を進めている三井住友建設の水田氏と、日立ソリューションズの賀川氏による対談を実施。建設現場における生産革命と、持続可能な社会の実現に向けた想いを語ってもらった。

※1:i-Construction
国交省が掲げる20の生産性革命プロジェクトのひとつ。測量から設計、施工、検査、維持管理における全てのプロセスでITを導入することにより生産性向上を目指す取り組み。
  • 水田 武利 / Mizuta Taketoshi

    三井住友建設株式会社 土木本部土木技術部 土木DX推進グループ長

    入社後は橋梁の設計や現場施工に従事。その後は技術開発担当として、ITやDXを含めた新規技術の導入を推進していくポジションに。現在は建設の知見を活かしながら、日立ソリューションズとともに土木分野のDX実現に携わっている。

  • 賀川 義昭 / Kagawa Yoshiaki

    日立ソリューションズ サスティナブルシティビジネス事業部スマート社会ソリューション本部フィールドソリューション部

    衛星画像のサービス開発や屋内位置把握ソリューションの開発を経て、空間情報を建設分野で活用する新規ビジネスの立ち上げに参画。現在は「鉄筋出来形自動検測システム」の企画・開発責任者としてプロジェクト推進を担当。

「すべての建設現場に笑顔を」という思いでデジタル化を推進

ー近年、建設テックが話題になっていますが、建設現場ではどのような変化が訪れていますか。

水田:建設業界はほかの業界と比べて、ITの活用がなかなか広がらず、特に建設現場では従来からのアナログな方法で作業を行っているというのが実情でした。たとえば、職人さんが個人の知識やノウハウ、経験を元に作業をしており、その方々の作業進捗を管理する業務も紙ベースで行われているという状況です。しかし、労働人口が減少していく中、建設業界では担い手が不足し、技能を継承できないという深刻な問題を抱えています。これらの問題を解決し、生産性を上げていくために、先進的なITを活用していくことが重要となっています。

賀川:近年になって国交省も積極的に取り組んでいるように、業界全体として業務のデジタル化を加速させている最中だといえますよね。私たちが提供するようなシステムやサービスを活用していける余地は、大いにあると思っています。

水田:そうですね。BIM / CIM(※2)といった3Dモデルを活用した業務の効率化と高度化が進んでおり、まさにこれから本格的な変化を遂げていくと考えられています。弊社としてもデジタルトランスフォーメーション(DX)に関する部門を新たに立ち上げるなどITの活用を重要視していて、試行錯誤を繰り返しながらさまざまな可能性を追求していますね。

※2:BIM / CIM(Building/ Construction Information Modeling, Management)は、計画、調査、設計段階から、3次元モデルを導入することにより、その後の施工、維持管理の各段階においても3次元モデルを連携・発展させて事業全体にわたる関係者間の情報共有を容易にし、一連の建設生産・管理システムの効率化・高度化を図ることを目的としたもの。

ー三井住友建設さまが中期経営計画で掲げている「建設生産革命の実現」について、教えていただけますか。

水田:当社が「2030年の将来像」として掲げている目標の中の一つです。簡単にご説明すると、先ほど申し上げたBIM / CIMを基軸に、次世代の建設生産システムを形にすることです。IoTやAIなどを含めた先進的なITを導入し、業務効率や品質管理のレベルを高めていき、建設のライフサイクルにおける生産革命を目指しています。

賀川:直近の目的としては建設現場の生産性向上などを挙げられていますが、決してそれだけに留まらず、幅広いステークホルダーを巻き込んでデジタル化を推進することで、将来的には建設業界や社会が直面している労働人口減少への対策になるとも考えています。

水田:おっしゃる通りです。私たちは、すべての建設現場に安全と笑顔を作りたいという思いで、「建設生産革命」に取り組んでいます。それだけでなく、再生可能エネルギーや社会インフラといった新たな事業領域でサービスを創出していくことや、新技術を導入したサステナブルな技術の開発、さらにはグローバルな人材育成なども含めて、人と街を支えるべく、「変革への加速」を目指して、デジタル化を進めています。

タブレットのカメラを使って鉄筋出来形を自動検測し、想定以上の生産性向上を実現

ー「鉄筋出来形自動検測システム」の開発経緯や背景について教えてください。

賀川:私は学生時代に建設・土木を学んでいたため、ITで建設業界の課題解決の力になりたいという想いを、いつも持っていました。そのような中、作業員の位置情報から安全管理を支援する「作業員安全支援ソリューション」の導入をきっかけに、三井住友建設さまとは、いろいろな情報交換をさせていただきました。三井住友建設さまは、建設現場のデジタル化に積極的に推進しているので、その苦労や課題を少しでも解決できないかと、さまざまなソリューションやアイデアを提案させていただきました。その中で、鉄筋の出来形計測業務におけるお話を伺ったのが始まりです。

水田:そうですね。ソリューションの名前にも付いている「鉄筋の出来形計測」という工程の負担を軽減できないか、という悩みを抱えていました。鉄筋の計測や検査をする時に、当時はアナログな方法しかなかったので非常に時間がかかっていたんです。建設現場において必須の工程なのでミスや省略は許されず、それでいて作業の負担が大きいので、何とか効率よくできないかということで相談いたしました。

賀川:ご相談を受けた時、当社からカメラを使って鉄筋を遠隔計測できる方法をご提案させていただきました。私自身、画像処理や位置情報など空間情報に関するシステムに長年携わってきたので、それらの経験やノウハウを元に、ソリューションを考えました。当初はまだアイデアレベルだったので、多くの試作や検証が必要であるため、「ぜひ一緒に挑戦してみませんか」というスタンスでしたね。

水田:実際には、鉄筋の出来形計測について、当社でも独自にITを活用した省力化の研究を行っていました。しかし、効率を上げる良い方法を見出すことができず、悩んでいたんです。賀川さんから、「カメラと画像処理の技術で鉄筋を遠隔計測する」というお話を伺った時、「この技術を使えば、飛躍的な業務効率化につながるかもしれない」という期待があり、「挑戦してみよう!」と思いました。

ー「鉄筋出来形自動検測システム」の特長や効果はどのようなものでしょうか。

賀川:簡単に説明すると、対象物までの距離を測定できるデプスカメラと画像処理の技術を組み合わせて、鉄筋の間隔・長さ・本数などを自動計測できるソリューションです。メジャーで測る、計測箇所に目印をつける、といった作業をすることなく、検測の工程をすべて、タブレットによって効率的に行えます。

水田:鉄筋出来形検測自体は、それほど難しい作業ではなかったのですが、現場には検査員が来て立ち合い、検測の写真を撮ってエビデンスを残すなど、数多くのステップを踏まないとけません。また、検測する場所も多くあるため、現場の職員の時間と労力がかかってしまうことが悩みでした。賀川さんと出会ってから、このソリューションを現場で試した当初、建設現場の職員などから多くの要望が出たのですが、賀川さんをはじめ、日立ソリューションズはそれらの多くの要求に応えてくれたので、とても頼りになるパートナーでした。

賀川:建設現場の職員の方々からの声に応えるべく、アルゴリズムを変えていきながら、再び現場で試していく。この繰り返しによって、ソリューションを構築していくことができました。三井住友建設さまの実際の建設作業現場で試すことができたほか、いただいたフィードバックの一つひとつも大変貴重であったと思います。

水田:建設現場で検証した結果、測定誤差は「プラスマイナス3ミリ」という高い精度が出て、許容範囲に収まりました。また、従来のアナログな測定方法に比べて約1/3の時間で計測できるといった点もポイントですよね。さらには、遠隔で使えるので、移動にかかる時間やコストを軽減できる。つまり、それがコロナ禍において密の回避にもなるといったプラスアルファの価値や効果が期待できることもわかりました。作業時間の短縮だけではなく、生産性向上の面でも想定以上の効果を得られました。

パートナーシップで目指す建設業界の活性化と、持続可能な社会

ー「鉄筋出来形自動検測システム」の開発を通じて、どのような気付きがありましたか。

水田:私たち建設業のプロフェッショナルな知見とITのプロフェッショナルの知見を融合させることで、業務革新を実現できる余地は別の工程でも多くあると考えています。たとえば、鉄筋以外の計測作業はもちろん、コンクリートの打設などもデジタル化するなど、多方面への横展開が期待されます。さまざまな作業や工程をデジタル化していくことで、建設業界全体の変革が進んでいくような可能性を感じています。

賀川:私も同じ考えです。建設業界のデジタル化の必要性や可能性を改めて実感しました。たとえば、建設現場の計測作業においてはITのチカラで変革を起こせる部分はたくさんあるように思うんですよね。建設業界全体が今その方向へ動きだしており、三井住友建設さまは、デジタル化への興味と熱意を持っていらっしゃるので、ともに積極的に挑戦していければと考えています。

今後の目標や実現したい社会の姿などを教えてください。

賀川:私は、建設のプロセスの効率向上によって労働人口不足の解消につなげ、建設業界の明るい未来に貢献したいと思っています。建設現場は肉体的にも環境的にも「きつい」というイメージがあると思いますが、建設業界は社会を形作る上で欠かせない役割を担っていることもたしかです。だからこそ、ITのチカラで誰でも働ける環境を作り、多様な人材が笑顔で活躍する業界に変革させていきたいという想いを持っています。

水田:昔に比べると女性が活躍できる環境が整ってきていることもあります。一般社団法人日本建設業連合会では、「けんせつ小町」として女性躍進を推進する中、当社でもすべての社員が能力を十分発揮できるような働きやすい労働環境の整備に取り組んでいます。また、優れた技術を表彰する「i-Construction大賞」の国土交通大臣賞も受賞しました。今後もその追い風を活かしながら、日立ソリューションズや賀川さんとともにDXを進め、すべての建設現場で安全と笑顔を作り、人と社会をつないでいきたい。そして建設業界全体で持続可能な社会の実現に貢献していきたいと考えています。

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