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2021.07.27

【戸田建設×村田製作所×日立ソリューションズ】
建設現場における作業者の安全と健康を守るため、センシング技術による新たな挑戦

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社会インフラや人々の生活基盤を支える建設業。建設現場での労働災害は企業経営に重大な影響を与えかねないことから、作業者の安全と健康を確保し、熱中症による事故など、労働災害のリスクを低減することは建設業にとって不可欠である。そこで戸田建設、村田製作所、日立ソリューションズの3社は、建設現場の作業者の安全と健康を守るべく「作業者安全モニタリングシステム」を開発した。ヘルメットに取り付けたセンサから作業者の生体データを取得し、安全管理を行うシステムとして建設現場で使われている。今回は、現場活用の検証を担う戸田建設の今堀氏、デバイスを開発した村田製作所の大串氏、そしてシステム開発を担当した日立ソリューションズの中野氏が、プロジェクトにかける想いや建設現場の未来について語り合った。

  • 今堀 賢一 / Imahori Kenichi

    戸田建設 建築本部 特定プロジェクト室 技術部 開発課 課長代理

    建設現場の施工管理を約10年務めた後に、特定プロジェクト室に異動。IoTを活用した作業者の安全確保や施工の効率化などを目的とする「作業者安全モニタリングシステム」のプロジェクトに参画した。建設現場での活用を実現するため、橋渡しとしてプロジェクトに参画。

  • 大串 直輝 / Ogushi Naoki

    村田製作所 IoT事業推進部 センシング機能開発課 シニアエンジニア

    入社後の約9年は先行技術開発部門に所属し、主に次世代センサの技術開発に従事。現在はセンサのみならず無線技術などIoT全般のソリューション開発に携わり、「作業者安全モニタリングシステム」のキーマンとして事業推進を担当している。

  • 中野 正樹 / Nakano Masaki

    日立ソリューションズ サスティナブルシティビジネス事業部 スマート社会ソリューション本部 フィールドソリューション部 第1グループ グループマネージャ

    長年、デバイスとの通信を活用したシステムの開発および運用に従事。「作業者安全モニタリングシステム」においては、クラウドサービスの開発プロジェクトマネージャーを担う。

「作業者の安全管理をITで変革する」という使命感

ー「作業者安全モニタリングシステム」の開発経緯や背景を教えてください。

大串:このプロジェクトが始動したきっかけは、2016年頃にさかのぼります。村田製作所が保有する無線やセンシング技術を活用して、建設現場の作業者の安心・安全を高める仕組みがつくれないかと、戸田建設さまに提案をさせていただいたことがスタートでした。

今堀:そうですね。「作業者に何かデバイスを取り付けて管理できないか」という議論から始まったように思います。夏の建設現場の労働環境の過酷さは年々厳しくなっており、建設業界全体としても熱中症対策は重要課題なので、センサやデータを活用したモニタリングシステムの開発には、とても興味が湧きました。

大串:「こういう機器を開発したので使ってください」と売り込んだわけでなく、建設現場で実際に働く作業者の方々に、課題やニーズをヒアリングしながら開発を進めていきました。ネットワークを経由して、どうやってクラウドにデータを集めるかということも課題でした。電子デバイスなどの機器の開発を主軸に置いている当社にとっては経験がない分野だったので、デバイスやセンサのデータ収集・活用システムで実績がある日立ソリューションズに相談してプロジェクトがスタートしました。

ー本プロジェクトの参画時にどのような想いを抱いていましたか。

中野:村田製作所さまからご相談を受けたとき、電子デバイスなどの機器と当社のITを組み合わせると、これまでにはない新しい仕組みを作り出せるかもしれないという期待が高まりました。建設現場の作業者の健康を管理し、労災を起こさないということは、建設業にとって重要な課題であることがわかったので、この課題を解決したいという想いを抱きましたね。私自身は前向きな姿勢で参画させていただきましたが、前例のない挑戦に対して、お二人には多少の不安もあったのではないでしょうか。

大串:正直なところ、不安は少しありました。というのも、人にデバイスを装着して生体情報をセンシングし、ネットワークを経由してデータを収集することは、当社として初めての経験でした。しかし、このシステムが建設現場の安全管理の改革につながると確信していたので、「作業者の安全管理の方法をITで変えるんだ」という使命感に近い想いも抱いていましたね。

今堀:私も一筋縄ではいかないだろうなと、ある種の覚悟を持っていました。私自身が現場監督を長年務めていた経験もあり、すべての作業者が安全管理に対して高い意識を持っているとは限らないということや、作業者一人ひとりの安全確認を行う手順や仕組みなどが、すべての現場において整っているわけではないという課題を感じていたところがあります。安全管理のためにITを導入しても、作業者一人ひとりが手順通りに操作できるのだろうかという不安もありました。しかし、ヘルメットにデバイスを装着するだけで作業者の生体情報を取得することができるというお話を伺った時、「このソリューションは本当に革命的な変化につながる」という期待で胸が膨らみました。

作業者の熱ストレスをリアルタイムで検知し、熱中症を防ぐ

ー「作業者安全モニタリングシステム」とは、どのようなソリューションですか。

大串:ヘルメットにセンサを取り付けて、作業者の脈拍や運動強度、周辺の推定WBGT(※)などから熱ストレスを計測し、遠隔で安全管理ができるシステムです。熱中症対策だけでなく、作業者に転倒や転落があった場合に通知することもできます。位置を把握できるため、現場の作業者の入退場管理や資材管理なども行えます。ユーザビリティにもこだわり、作業者のストレスにならないよう非接触の生体センシングの開発に力を入れました。類似の機能を持つウェアラブルデバイスとして腕時計型の製品を想像される方も多いと思いますが、物にぶつかったりするなど、計測精度や誤報といった面で不安が残りました。建設現場においてはヘルメット型が良いだろうというのが、我々の試行錯誤を経て導き出された結果です。

※WBGT:Wet Bulb Globe Temperature(湿球黒球温度)の略で、暑さ指数と呼ばれる熱中症リスクの度合いを判断するための指標。ISO7243やJIS Z8504で規格化されている。

今堀:たしかに装着感は試行錯誤を重ねましたね。開発当初のデバイスのサイズはもっと大きかったのですが、重くて動きづらく圧迫感があるのが難点でした。現場目線のさまざまな意見を村田製作所さまと日立ソリューションズにお伝えし、無理難題と思えるような要望も聞き入れていただき、感謝しています。

中野:当社のソリューションである「遠隔設備管理サービス」をベースにカスタマイズを行い、村田製作所さまのデバイスと組み合わせてデータを集め、作業者の安全管理の監視から要因分析、可視化までを実現するシステムを構築しました。戸田建設さまのご協力により、現場の方の生の声を聞けたことは大きな力になったので感謝しています。誰でも手軽に利用できるシステムを実現するため、専用のアプリケーションをインストールする必要がないクラウドサービスで提供することにしました。

ー「作業者安全モニタリングシステム」でどのような成果が出ているでしょうか。

中野:現場のセンサから送られてきた温度・湿度・脈拍・活動量の各データを基に「熱ストレスが高まっている」と判定すると、現場管理者などにアラートを送り出します。これにより、ほぼリアルタイムで作業者の危険を検知することができるようになりました。作業者の安全の状況を速やかに把握できるため、企業や現場管理者は必要な対策が取れるようになっています。

大串:システムを実用化してから2019年と2020年、戸田建設さまでご利用いただいている現場において熱中症になった方はいないと聞いています。延べ人数で1500名程度がご利用くださっている中、この数字は期待以上のものでした。また、これまで安全管理上のルールで二人での作業が必須でしたが、遠隔で安全管理を行えるようになったため一人でも作業ができるようになり、生産性向上につながっているという声もいただいております。

今堀:そのような成果に加え、「安全管理のためにウェアラブルデバイスを装着する」という意識を現場の作業者に定着させることができたのも、大きな成果だと感じています。今後はさまざまなシーンで、建設現場でもデジタル技術を積極的に導入していきたいですね。

パートナーシップで描く、未来の建設業

ー本プロジェクトを通じて、建設現場におけるIT活用の可能性をどう感じましたか。

大串:先ほど申し上げた通り、「作業者安全モニタリングシステム」による成果は、作業者の安全管理への意識の変化や、熱中症に罹らないという点などで、大きな成果が出ています。また、現場の方にヒアリングを重ねる中で、入退場管理や資材管理の機能も追加で実装できました。これからも現場やお客さまのニーズを掘り下げて、建設業のさらなる課題解決に貢献していきたいですね。

今堀:この取り組みは、言ってみれば入口にすぎないのかもしれませんね。将来的には、カメラやサーモセンサなども活用して、建設現場全体を管理できるようなシステムに進化させることもできると期待しています。建設業界にITを活用した新たな風を吹き込み、一つひとつの現場を変えていくことで、社会全体をより良く変えていきたいと思っています。

ー未来の建設業界のあり方や、今後のビジョンについて教えてください。

大串:村田製作所は、あらゆるモノが通信ネットワークを介してつながるIoT社会が到来する中、「エレクトロニクスの改革者」として、持続可能な社会への貢献をめざしています。今回のシステムを通じて、建設現場の作業者の状況をデータで可視化できるようになり、作業者の安全管理や働き方をより良い方向に変えられたことは大きな意味があると考えています。今後も当社の独創的で最先端のモノづくり力を活かし、戸田建設さまや日立ソリューションズと協力して、作業者が安全に安心して働ける環境づくりや建設業のさまざまな課題解決に貢献し、社会を支える建設業界に優秀な人材が集まるといいなと思っています。

今堀:建設業界は今、大きな変革期に入っています。たとえば、新型コロナウイルス感染症によってオフィスの在り方や人々の働き方、生活様式が大きく変化しました。今後もこの変化は戻らず、社会や生活者のニーズはより多様化・複雑化していくように思います。私たち戸田建設は、「安心・安全な社会づくり」や、現場で作業する人々や地域で生活する人々の「喜び」を実現したいという思いで、仕事をしています。今回、IoTを活用し、建設現場の作業者の安全をしっかり守ることができるようになりました。今後も、村田製作所さまや日立ソリューションズとともに知見を深めて建設現場のデジタルトランスフォーメーションに取り組み、サステナブルで快適な社会の実現に貢献していきたいと考えています。

中野:「作業者安全モニタリングシステム」の構築を通じて、デバイスやセンサとITを組み合わせることで、通常、人間では知覚できない事象を検知できることが明らかになりました。今後は、収集したデータを継続的に活用・分析して、事故の予防につなげるサービスを提供していくことも予定しています。日立ソリューションズには、グローバルな先端ITのナレッジや幅広い産業におけるIT活用のノウハウがあります。今後も、エレクトロニクス業界で先進的な取り組みを主導する村田製作所さまや、建設テックに積極的に取り組む戸田建設さまとのパートナーシップの下、持続可能な社会をめざして、建設現場の「安心・安全」「喜び」を協創していくことを楽しみにしています。

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