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インダストリー4.0が実現をめざす デジタル市場:App Store for Machines 第1回 新たな経済圏の象徴「App Store for Machines」 インダストリー4.0が実現をめざす デジタル市場:App Store for Machines 第1回 新たな経済圏の象徴「App Store for Machines」

インダストリー4.0が実現をめざす デジタル市場:App Store for Machines 第1回 新たな経済圏の象徴「App Store for Machines」

writer:川野 俊充氏

インダストリー4.0の動向

I4.0を巡る環境は2016年に大きく変化した。それまではドイツが2013年から本格的に推進しはじめた標準化戦略に追従すべく、米国でインダストリアル・インターネット・コンソーシアム(以下IIC)、日本でインダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(以下IVI)、ロボット革命イニシアティブ協議会(以下RRI)、IoT推進フォーラムなどが矢継ぎ早に設立され、いわば「国別対抗戦」の様相を呈していたものの、2016年からは一転して各国が連携をする動きが出てきている [5][6]

先手を切ったのはI4.0とIICだ。2016年3月に両組織に加盟する独ボッシュと、米国に拠点を移しつつある独SAPの二社の呼びかけで両陣営に属す主要企業をスイスのチューリッヒに呼び寄せ、産業用のIoT戦略で連携を進める合意形成を行なった。互いに進める実証事業の情報や事例を交換し、規格の標準化に向けて協力することになったのだ [7]

<p2016年の4月に締結された日独共同声明がそれに続く形となった。毎年4月にドイツで開催される世界最大の産業向け見本市「ハノーファーメッセ」の会期に合わせて日本とドイツが「日独IoT/インダストリー4.0協力に係る共同声明」を締結し、同月実施された日独首脳会談においても歓迎のコメントが両首脳から出された。I4.0連携に関する局長級対話を毎年実施することになり、I4.0に関わる民間団体などの参加を得て、次の6項目について連携することになった [8]

1.産業サイバーセキュリティ
2.国際標準化
3.規制改革
4.中小企業支援
5.人材育成
6.研究開発支援

「日独で緊密に協力をして『第四次産業革命』を実現させたいと思います」という安倍首相の言葉は広く報道され話題となったことは記憶に新しい。

2016年10月には日本のIoT推進コンソーシアムとIICが連携を表明し、これで「独米」「日独」「日米」がそれぞれ連携することとなり、三つ巴の対抗戦は軟着陸をめざすこととなった。これはデジタル化が進む製造業などの各種業界において、世界各国で独自の規格を推進して「ガラパゴス化」が進んでしまうと結局市場が混乱することになり、誰もが苦労してしまうことが様々な実証実験を進める中で課題として浮き彫りになってきたためだ。各国それぞれの特徴を尊重しつつも、バリューチェーンの接点では互換性を確保した規格を標準化することで決着をつけるのが妥当だというわけだ。こうした流れの発端となった独米の提携が、中立国であるスイスで合意されたというのは奇しくも象徴的である。

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新たな経済圏の象徴「App Store for Machines」

I4.0がめざす「進化:evolution」は顧客個別のニーズに応えるテーラーメイドの製品を量産品の価格・品質・納期で提供できるようになる世界だ。自動車や家電、家具や衣服など、これまで大量生産が前提だった工業製品を「マスカスタマイゼーション」できるようになると確かに世の中が変わるだろう [9]

「革新:revolution」を理解するにはI4.0の各種提言書を公開しているドイツ科学工学アカデミー(acatech)の白書「Smart Service Welt(スマートサービスの世界)」に示されている「技術情報のマーケットプレイス」というコンセプトが参考になる(図1) [10]

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図1 I4.0でのスマート生産サービスとして提唱されている技術情報のマーケットプレイス

例えば工作機械などの産業用機械を使いこなすにはかなりの習熟が必要で、機械の操作方法・プログラミング方法・設計データのツールチェーン・材料や工具などの物理的な特性データなど、ユーザと機械メーカのノウハウの擦り合わせがモノづくりの競争力の根幹を成している。こうしたノウハウの作り込みと技能の継承が製品のライフサイクルの短縮化に追いつかなくなって来たため、そのノウハウそのものをデジタル化してセキュアにブラックボックス化して「アプリ」としてクラウドで取引できるような市場を創出しようというアイデアだ。要は「App Store for Machines」というコンセプトだと思えば良い。

実際にこれをサービスとしてリリースしている事例がドイツにある。レーザー加工機などの機械メーカであるトルンプが立ち上げた「AXOOM(アクスーム)」というサービスがその先駆けだ。元々はトルンプが機械のユーザに対して遠隔監視や予防保全のサービスを実施するためのプラットフォームとして設計されたクラウドサービスだったが、これに他社の機械もI4.0で指定されている標準規格のOPC UA [11] で繋がるようにオープンにし、そこに繋がっている機械が使えるアプリを配信するアプリストアも開設した。現時点では20社ほどの企業が50余りのアプリを配信しているが、順次品揃えを拡充し、日本をはじめとするアジアでも2017年にサービスを開始する予定だ。

私が気に入っているAXOOMアプリの代表例が「NCコンバータ」である。これはトルンプのNCプログラムを例えばアマダの機械でも使えるように相互変換するアプリで、月額120ユーロの従量制で使うことが可能だ。メーカ毎にプログラミング言語の方言があるため通常はこうした変換をユーザがそれぞれ手作業で行っているのが実態で、コンバータアプリが正規品として提供・保守されると業界全体が助かるはずだ。米国ではGEがPredixというサービス名で、日本ではFANUCがFIELD systemというサービス名で、同様のApp Storeサービスを提供すべく準備を進めている。

図1で示されている機械加工業社は世界中に数多くあり、匠の技能を競争力の源泉と据えている。ただ、一般的にはそうした業者は小規模でスケールしにくいという構造的な課題を抱えているのも事実だ。これは匠の技能の継承が容易でなく、経営基盤も脆弱になりがちだからだ。例えば材料の進化で強度の高い樹脂が安価に使えるとなると、これまで金属加工が必要だった仕事の一部がそっくりそのまま樹脂成形に持って行かれてしまうリスクと隣り合わせになってしまう。これを回避するための方法として考え出されたのが「App Store for Machines」である。匠の技をパッケージ化してアプリとして配信すれば、スケールしやすいソフトウェアビジネスを本業の機械加工と合わせてビジネスの両輪とすることができるため、経営基盤を安定させることができる。「ポケット加工のスクリプト」「ロボット用のバラ積みピッキングアプリ」「射出成形機の自動調整機能」などは世界中でニーズがあるアプリとなり得るだろう。

▶[5] acatech: Recommendations for implementing the strategic initiative INDUSTRIE 4.0, 2013
▶[6] 西岡靖之:"Industrial Value-chain Initiative プレスリリース", 2015
▶[7] 澤田朋子:"次世代製造技術の研究開発ドイツ編"科学技術振興機構, 2015
▶[8] 正田 聡:IoT社会における製造業の方向性, 2016
▶[9] DKE VDE: THE GERMAN STANDARDIZATION ROADMAP INDUSTRIE 4.0, 2014
▶[10] Acatech: Smart Service Welt Final Report , March 2015
▶[11] OPC Foundation: OPC UA: Interoperability for Industrie 4.0 and the Internet of Things, 2015