ページの本文へ

Hitachi

デジタルソリューション

『サービス化における「顧客価値」と「利益」の同時獲得』第3回 先手必勝ではなく、後手必勝のマネタイズ 『サービス化における「顧客価値」と「利益」の同時獲得』第3回 先手必勝ではなく、後手必勝のマネタイズ

『サービス化における「顧客価値」と「利益」の同時獲得』第3回 先手必勝ではなく、後手必勝のマネタイズ

writer:川上 昌直氏

今以上にサービスを充実させることによって、顧客接点の充実と収益の獲得機会が増えます。つまり、顧客接点と課金ポイントが表裏一体であることは 前回示したとおりです。

そこで今回は、どのように考えれば御社にもそれが可能であるのかを見ていくことにしましょう。ポイントは「先手」ではなく「後手」。

利益には時間軸がある

利益はどうやって得るのですか? そんなアタリマエのことを聞くなとおしかりを受けそうですが。まずは製品やサービスを用意して、それを販売する。その販売価格から用意にかかったコストを差し引いた差分をもらうというやり方ですね。そこに異論はありません。しかし、みなさんが想定しているのは、おそらくお金と製品(サービス)の交換で、今「ただちに」利益を得るということではないでしょうか。全製品のマージンが一定であれば、企業にとっては原価計算どおりの利益を手堅く得ることが出来ます。

他方で、時には市場で一気に人気者になるため、看板商品では儲けないという価格設定をするやり方もあります。ただしそれでは顧客価値ばかりが増大し、企業が存続の危機に脅かされるので、どこかで利益を取る必要が出てきます。そこで、マージンが高い製品を組み合わせるマネタイズ戦略がとられます。たとえば牛丼チェーンならば、牛丼よりは卵や漬物などの付帯の方がマージンが高いわけです。それを組み合わせて選んでもらうことで、お会計時には欲しいだけの利益が得られます。外食産業では多く採用され、他にもハンバーガーショップなども、飲み物で儲けるというやり方が当然になっています。

さらにここに、時間軸を組み合わせることで、興味深いビジネスモデルがはっきりと見えてくるようになります。最も有名なところでは、ジレットが採用したカミソリの刃モデル。さきほどの例と同じく、カミソリの本体ではなく替刃の方がマージンが高く、それで儲けるというものです。しかし注目すべきは、各製品のマージンの違いではなく、「時間軸」。ジレットのカミソリは切れ味を尖った価値提案にするので、当時としては画期的な刃が取替可能なカミソリを発売したわけです。時間が経てば切れ味は落ちます。そこで替刃を購入してもらうのですが、これがマージンの低い本体と時間差、つまり「時間をかけて」発生するわけです。

前回紹介した家庭用ゲーム企業のビジネスモデルもそうです。本体はマージンが低いのですが、ユーザーがゲームにハマりソフトを買い足すほどに、あとで高いマージンが得られるのです。

ほしいだけの利益をただちに得るのがのぞましいですが、それでは顧客がそのソリューションを見極める前にすべての代金を支払わないといけません。そのため、ときに製品が高額になりすぎたりして、顧客の経済性にあわなくなることがあります。

反対に最初に企業の取り分を少なくして、顧客価値を大きくしておけば、顧客は喜んで購入してくれる可能性が高まります(第1回図参照)。そのサービスには簡単にエントリーできるが、その後それが本当に必要であるとわかれば、顧客は継続してお金を払い続けるはずです。企業サイドから見れば、「都度」ではなく「オビ」で利益を回収するというマネタイズ戦略です(以下図を参照)。

img2@1x.png

図 時間軸を入れた利益のとり方

デジタル時代は「後で儲ける」が主流

都度利益を回収するやり方は、モノづくりやモノ売り企業で伝統的に多く採用されてきました。車を1台売ったらきっちりと利益を回収する、洋服を1枚売ったら、時計を1つ売ったら、、、という具合に。

これに対して、デジタル分野では時間軸を最初から念頭に置いて、利益を積み重ねるやり方が主流です。たとえば、音楽とり放題や、動画見放題のサブスクリプション(定額課金)制のビジネスなどが顕著な例です。こうしたビジネスでは、音楽1曲で利益完結、動画1本で利益完結、ではなく、かかったコストを少しずつ回収します。つまり、「あとで儲ける」やり方が定着しています。

デジタル分野でそれができるのは、サービス提供に追加的な変動費がかからないからという理由があげられます。

たとえば、アドビシステムズ。皆さんおなじみのPDFを開発した会社です。アドビにとっては、WEBデザイナーや出版社に必須なソフトウェア、イラストレーターやフォトショップもドル箱商品でした。これらはクリエイティブスイート(CS)というパッケージで日本でもおよそ30万円以上の高値で販売されていました。まさに1本売れればその時点で、研究開発費や諸々もコストを一気に回収できます。

しかし2013年、アドビはこのドル箱ソフトのパッケージ販売をやめて、月額3,000円程度のサブスクリプションに移行することを発表。その理由は、大きく2つ。1つは顧客価値提案サイドの理由で、これまでソフトが高額すぎて手に入らなかったユーザーに、この技術の素晴らしさを提供することです。もう1つは収益サイドの理由。それは、顧客から都度ではなくオビで支払ってもらうことで、収益を安定させ、より先進的な投資を長期にわたってできることです。紆余曲折ありながらも、株式市場はその意思決定を歓迎し、最終的にアドビは2015年、2016年度過去最高益を更新し続けました。さらにユーザーを大幅に増やし、現在では650万人以上がアドビのソフトウェアを使っています。

キャッシュタイミングで見れば、まさにパッケージ販売の先手必勝から、サブスクリプションの後手必勝を実践しました。アドビは、ソフトウェア販売業から、顧客に寄り添うサービス化を拡充し、長期に渡って顧客接点と課金ポイントを両立させました。彼らの現在のビジネスモデルである「SaaS(Software as a Service)」とはまさに「サービス化」を意味しているのです。

ものづくり企業もマネタイズ転換期

気がつけば、「後手必勝」のサブスクリプションがわたしたちの生活に広く入り込んできました。音楽や動画に関しては、1曲あたり1本あたりで代金を支払うことはしなくなりました。それが当たり前になってくると、こうしたマネタイズのあり方は、デジタルの世界だけのものではなくなりつつあります。

ものを作って販売し収益を取る、単品原価を管理するというマネタイズのあり方自体が、モノづくりであっても変革期を迎えています。事実、サイクロンテクノロジーで有名な掃除機をつくるダイソンが、2018年1月より自社製品のサブスクリプションをはじめました。

顧客側から見れば、あの掃除機やドライヤーを月額定額で、手に入れることができます。たとえばパフォーマンスプランという契約なら、掃除機なら月額1,080円(税込み)から。分割払いで購入することとの違いは、飽きてしまったり、自分の生活に合わないと判断すれば、顧客は解約手数料を支払い、掃除機を返却すればよいのです。支払いが後回しになれば、一気にダイソンの購入が気軽になります。これまで高嶺の花であったダイソンが「自分ごと」になるのです。

他方でダイソン側から見れば、サブスクリプションによって顧客に試すシーンを提供できるようになったので、いずれは、わざわざ家電量販店で実機をおいてプレゼンテーションする必要がなくなります。自社でこのサービスを展開することで、家電量販店に5~7割程度で卸していたことを考えても、収益が格段に向上します。また、小売店より向こう側ではコントロールできなかった顧客接点を、直にとれるようになります。これは課金ポイントが増えることになります(第2回参照)。こう考えると、いずれはほぼすべてが直販のサブスクリプションに移行するかもしれません。

ものづくり企業は、製品視点でモノを作り込むことで差別化を図ろうとしてきました。そのため、イノベーションの余白が小さく、すぐに頭打ちしてしまいます。他方で、いまだ殆どの企業が手を付けていないマネタイズ戦略を変更することによって、イノベーションを起こすことができます。技術のイノベーションではなく、顧客の生活そのもののイノベーションです。

ただし、その実践は直感的にできるものではありません。ビジネスモデルは仮説のかたまりですから、必要な仮説構築やその仮設を検証するために、生きたデータの収集とタイムリーな分析が必要です。また、メーカーが苦手とするユーザーインターフェース(ユーザーと企業との接点の連続)の改革も必要となります。新たなビジネスが飛躍的に発展を遂げるには、良いものづくりと、デジタルが高次元に融合する必要があります。

こうした点さえクリアできれば、どのような業種業態であっても、マネタイズに変革をもたらすことができます。接点を強化して顧客をさらに満足させ、そのなかで適切な課金ポイントを見定める。そうすることで、これまでの概念を打ち破る革新的なビジネスを生み出されることを切に望んでいます。

▶参考文献:川上昌直(2017)『マネタイズ戦略 顧客価値提案にイノベーションを起こす新たな発想』ダイヤモンド社

pic2@1x.jpg

~関連ソリューション~

・「モノ」から「コト」への時代へ。消費動向の変化をビジネスチャンスに / (株)日立ソリューションズ
顧客管理・課金・請求ソリューション BSSsymphony


連載目次

第1回 変化する顧客価値提案
第2回 サービスと収益化は表裏一体
第3回 先手必勝ではなく、後手必勝のマネタイズ