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メガFTAの入り口 第1回 日本が直面する激動するメガFTA メガFTAの入り口 第1回 日本が直面する激動するメガFTA

メガFTAの入り口 第1回 日本が直面する激動するメガFTA

株式会社ロジスティック 代表取締役
嶋 正和氏

メガFTA元年の予定だった2016年

2016年9月時点では、日本はTPPの大筋合意の手前にいました。アメリカという大きなマーケットに対してアクセスを可能にするTPPが幾多の難局を経て、締結される一歩手前でした。

同時期には、2016年末の合意をめざす、日EU EPA、そしてASEAN10カ国、日中韓、インド、オーストラリア、ニュージーランドを包含するRCEPも大筋合意を迎えるのではないかとの熱気を帯びていました。既存のFTAでは日本の貿易金額の20%程度しかカバーできていなかったのですが、3つのメガFTAでいきなり貿易額の80%をカバーするまでに至るFTA先進国に日本が躍り出る一歩手前でした。

その後、皆さんがご存じの通り、イギリスがEUの離脱を決定、アメリカはトランプ大統領の誕生でTPP離脱を決めました。保護主義が台頭し、自由貿易は大きく後退するかに思えました。実際、TPPの結果を受け、日EU EPAもRCEPも2016年に大筋合意には至っていません。

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死んでいなかったメガFTA

メガFTAは頓挫するのかと思われた2017年。当初の勢いはなく、その速度を落としましたが、着実に進んでいます。

まず、日EU EPA。日程的には遅れましたが、2017年7月に「大枠合意」に至りました。「大枠合意」という言葉は、「大筋合意」に比べて、詳細が決まっていないレベルの合意で、日本とEUが自由貿易の火を消すまいと、段階を落として合意発表したものです。実際、協定内では、ISDS条項という投資家と国家間の紛争処理規定はまだ決まっていません。しかしそれでも、EU側の工業製品関税即時撤廃率82%、最終は100%の撤廃になる高度なEPA(FTA)となっています。

また、日本のEPAでは、原産地証明書は商工会議所が証明書を発給する第三者証明制度をとっていますが、この日EU EPAは自己証明制度を採用。TPPに続いての採用です(オーストラリアとのEPAでも自己証明制度は採用されましたが、第三者証明も併存されているのでここでは別としています)。

16カ国というTPP以上の国数が参加し、中国やインド、韓国といった大国も参加してのRCEPは進みが遅いですが、議論は着実に進んでいます。各国の立場が違い、合意を得るのに時間がかかっており、2017年中の大筋合意は難しいとはいわれています。中国、韓国で日本の貿易金額の30%を占め、日本に取って大変重要なFTAです。FTA活用の期待の高いFTAです。

現在、日本とインドとのCEPA(インドとのEPAはこう呼ばれています。CはComprehensiveのCです)において適用される原産地基準は、関税分類変更基準(CTC)と付加価値基準(VA)の両方を証明することとなっています。多くのFTAの原産地基準は、CTCもしくはVAの選択制となっているのに対して、インドの場合はCTC&VAという二つの基準を満たさなくてはならず、企業が活用するのに大きな障壁となっています。

また、インドのCEPAは市場開放割合が他のFTAに比べて低い状態のため、RCEPにより適用原産地規則の緩和及び適用領域の拡大が達成されることが期待されています。

最後に、少し形を変えつつあるTPP。アメリカの大統領がトランプ氏に代わり、トランプ氏の選挙公約通り、アメリカはTPPから離脱をしました。当初は日本もアメリカがTPPに残留するよう、トランプ大統領を説得していましたが、努力報われず、TPPは12カ国から11カ国になりました。しかし、日本をはじめとする11カ国はこの高度に自由化を実現した貿易協定であるTPPをなくすことなく、TPP11として発効できるよう協議をしています。アメリカが参加しないことで、一部の項目を凍結項目として実施せず、アメリカが参加することになれば凍結を解除し、もとのTPPにする修正案を検討しています。凍結項目は以下の項目といわれています。

・新薬のデータ保護期間
・特許期間の延長
・著作権の延長
・政府調達の解放  など

これだけのFTAが発効すれば、日本企業が本来欲していた巨大マーケット(EU、中国そして、できればアメリカ)へのアクセスが容易になり、日本企業に取ってのメリットはかなり大きなものになると考えられます。

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メガFTAは関税撤廃だけがメリットではない:企業に取ってのFTAのメリット

FTAの目的は多岐にわたっています。例えば以下のような例をFTAの目的として挙げることができます。

・関税の撤廃
・サービスへの外資規制撤廃
・投資規制撤廃・投資ルールの整備
・知的財産制度、競争政策の融和
・人的交流の拡大
・各分野の協力  ほか

殆どの企業にとってFTAのメリットは「関税の撤廃」でしょう。図1にあるように、従来の海外輸出では、相手国での輸入時に通常であれば支払わなければいけない関税が削減・撤廃されます。その際に頭に入れておくべき点は下の3点です。

1.関税撤廃のメリットを享受するのは、今まで関税を払っていた輸入者であり、販売をする輸出者ではない。
2.FTAにより相手の国は短期的に従来あった税収を失うことになる。
3.関税削減が可能となるためには、輸出者が輸出する商品の「原産性を証明」して初めてそのメリットを享受することができる。

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図1 FTAによる関税削減

1は、日本企業にとってFTA活用上でメリットを感じにくい点となります。3のように日本側は「原産性を証明」する労力が必要となるが、その労力に見合うメリットを直接的に日本側は享受できません。生産者・輸出者は輸入者との「巧みな交渉」をしないと関税削減のメリットを取り返せないのです。

2は、第3回で説明する輸入国による検認につながります。輸入国にとって税収の減はうれしいことではありません。関税収入が30%程度ある国もありますし、日本も工業品がほぼゼロ関税になった今でも関税収入は1兆円あります。いくらFTAが経済を刺激し、将来経済が成長して、違う形で税収が増えるとしても、輸入国もそう簡単に関税を放棄する訳にはいかないのです。そのため、輸入国は原産性を適切に証明できているかどうかを「検認」する権利を持っています。もし間違った証明であれば、関税削減分+ペナルティを要求されます。

3にあるように輸出者は、「原産性を証明」することが最低条件です。「うちの商品は日本で作っているから問題ない」という思いはけがの元です。FTAによる「原産」とは、

・最終生産(アセンブリ)工程が日本でなされている
・輸出品のHSコードに基づくFTAの原産地基準にその輸出品が合致している

ことです。明確な原産の判断基準がFTAの協定文に記されており、その基準に合致しているかが大事です。先のCTCやVAがその原産基準に当たります。日本で作っていても、基準を満たさない(VAの証明で付加価値率を満たさない)場合や、全て海外のパーツを使っていても日本で最終的な生産をし、基準を満たしていれば原産として認識されます。


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連載目次

第1回 日本が直面する激動するメガFTA
第2回 メガFTAでめざす先:グローバルSCMの見直し
第3回 メガFTAで顕在化するリスク:原産証明の取り消し、検認