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『サービス化における「顧客価値」と「利益」の同時獲得』第1回 変化する顧客価値提案 『サービス化における「顧客価値」と「利益」の同時獲得』第1回 変化する顧客価値提案

『サービス化における「顧客価値」と「利益」の同時獲得』第1回 変化する顧客価値提案

writer:川上 昌直氏

あなたが新たなビジネスを生む、あるいは既存ビジネスを改革させようとするなら、顧客を満足させるだけでもなく、また企業だけが一方的に利益を得るだけでもなく、その両方を実現するための考え方が必要です。顧客を立てればマーケティングコストがかかり、利益が圧迫されることになります。他方で利益を追求すれば、顧客に見透かされ逃げられてしまいます。一見あちらを立てればこちらが立たずのようですが、本当にそうでしょうか?

今回は、顧客価値と利益の同時獲得がいかにして実現するのか、なぜその考え方が大切であるのかを説明します。

顧客価値は「用事(ジョブ)」により異なる

企業の目的はなにか? それは、顧客に対してなんらかの提案をし、満足してもらうこと。そしてそれを継続しながら、社会を良くすること。

これを「顧客価値提案」といいます。ここで、顧客価値とは、顧客がその商品に対して受け取るメリットや満足の総和から、顧客が支払った価格を差し引いても、なお余る「お得感」のことです。  金額に変換するなら、顧客がそれに「支払っても良いと考える金額」から、価格を差し引きます。そうすると、顧客が製品を手に入れてもなお感じる「お得感」が見えてきます。なお、この「支払っても良いと考える金額」を顧客の支払意欲(WTP:willingness to pay)と呼びます。

顧客の支払い意欲(WTP) - 価格 = 顧客価値(お得感)

例を用いながら説明するとわかりやすいです。あなたが喉の渇きを潤したいとしましょう。それにいくら支払えるかと考え、だいたい200円くらいと見積もったとします。そうしてコンビニに入り、よく知っているスポーツドリンクが150円で売られていたとしたら、どうでしょうか。あなたは迷わずそれを買うでしょう。なぜなら、あなたが支払える200円を下回っているからです。あなたはスポーツドリンクを手に入れるとともに、50円も手に入れることになります。それこそが顧客価値です。誤解されることが多いですが、顧客価値とはスポーツドリンクそのものの価値ではなく、それを手にしつつ感じるお得感です。

ただし、どのような支払い意欲をもつ顧客であるのかによって、感じるお得感は異なります。なお、それを見極める上では、具体的にはどんな状況で喉を潤したいのかという、顧客の「用事(ジョブ)」に焦点を当てる必要があります。状況によって支払い意欲は違いますし、最適なソリューションも変わってくるからです。たとえば、会議中の喉休めには、お茶や水のほうがよい。いくらスペックが高くても、強炭酸のコーラを欲しがることはあまりないでしょう。ですから、会議中にコーラの売り子が、どれだけ安く売りに来たとしても、コーラは売れません。ユーザーは用事をうまく片付けられないから、WTPが形成できず、それに顧客価値を見出すことはないからです。このときには、スペックが低くてもミネラルウォーターのほうがWTPが高くなります。他方で、休憩中であればどうでしょうか? 気分転換に最適のソリューションになりますから、この時はコーラのWTPは高まり、顧客は価値を感じるのです。

このように、特定のシチュエーションによって想起するWTPが異なり、それがすなわちさまざまなソリューションが提案される結果となっています。そうであるならば、顧客の状況を見極めることは、顧客を満足させる上で不可欠であることが、おわかりいただけるでしょう。  どんなプロダクトも誰かのソリューションとなって、顧客を喜ばせ、そして社会全体をよりよいものにしていく。それこそが、企業の目的なのです。

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企業はお客さまと価値をシェアしている

価格はWTPとの差で顧客価値を生み出すばかりでなく、企業にとっても利益(粗利益や営業利益)を決定します。つまり顧客と企業とをつなぐ、重要な変数です。では、顧客価値は利益とどうつながっているのか? それを解き明かすために、企業が生み出した「総価値」に注目しましょう。総価値とは、顧客のWTPから企業のコストを引いたものであり、顧客と企業が協力して、生み出した価値です(図を参照)。

たとえば喉を潤すことに対して200円のWTPで、それを適切に解決するソリューションとしてのスポーツドリンクが150円の場合、顧客価値は50円となります。そして、もしこのドリンクをコンビニが90円で仕入れていたとしたら、コンビニの取り分である利益(この場合粗利益)は、60円です。最終的にこの取引によって生まれた総価値は110(=200-90)円となります。

WTPが200円であれば、このドリンクは190円にしても売れるでしょう。この時、顧客価値は10(=200-190)円と150円のときより小さくなるので売れ行きは鈍りますが、売れないわけではありません。なにより企業の利益は100(=190-90)円と大きくなります。他方で、スポーツドリンクを120円にすれば顧客は喜ぶが、企業の取り分は少なくなります。

このように、企業は、顧客とともに総価値(150円)を、顧客価値と利益(ひいては企業価値)としてシェアしています。単純にみれば、顧客価値は、価格を低めることによって実現すると考えがちですが、それは避けたいところです。利益が小さくなり、企業の犠牲のもとで顧客価値を生むことになるからです。それよりも、できるだけWTPを高めて総価値を伸ばす「価値創造活動」が望ましいです。そうすれば、価格を高めても顧客価値を生み出すことは可能になり、さらに利益も増大します。顧客を喜ばせ、利益も上げている、いわゆる「尖った」企業は、こうした思考をベースに意思決定をしています。

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図 企業は顧客と「価値」をシェアする

利益は将来の顧客価値提案のためにある

他方で利益はなんのためにあるのか? 誤解を恐れずに言うなら、それは顧客価値を生み続けるため。営利企業は利益を「目的」にしようとするが、それは正しくありません。利益は顧客価値を生み続けるための「条件」にすぎないのです。

イノベーションには投資が必要。その原資は融資でも増資でもなく、企業が蓄積した内部留保がよいです。自分で稼いだ資本は、結果が見えない不確実性に投資をしても文句を言われることがないからです。そのために、企業は毎期利益を生み続けなければならないのです。イノベーティブな企業ほど、資本の出し手に報いるのに十分なコストはどれくらいか、今後のリスクはどれくらい見込まれるのか、さらに将来の投資計画にどれくらいの蓄積をしておく必要があるのか、を勘案して最低限必要な利益を、事前にビジネスの制約条件として織り込んでいるものです。

加えて、利益の議論は、誰かから何かを対象として、どこかのタイミングでお金をもらうという意思決定でもあります。それは、特定の顧客から特定のサービスで実現することもあれば、顧客以外の誰かから顧客には見えないサービスで、ということもあるのです。つまり、利益の議論は、そもそも顧客価値提案を度外視して決められません。

近年では顧客価値提案のあり方が、利益思考と結びついて多く変貌を遂げています。その代表例がGAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)に代表される、後発でありながらも新たなサービスを作り出した、尖りきった企業たちです。顧客に寄り添うことが顧客価値だけでなく、利益につながることを十分にわかっているのです。単純にモノを作って売っているだけでは、顧客の用事に答えられなくなっています。そして、それを解明するための重要な概念が、「サービス化」なのです。第2回では、顧客価値と利益がいかに結びついて新たなビジネスを生み出すのかを明らかにしましょう。

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・「モノ」から「コト」への時代へ。消費動向の変化をビジネスチャンスに / (株)日立ソリューションズ
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連載目次

第1回 変化する顧客価値提案
第2回 サービスと収益化は表裏一体
第3回 先手必勝ではなく、後手必勝のマネタイズ